さよなら妖精 ★★★★

米澤穂信 東京創元社 ; ISBN:4488017037 ; (2004/02)

切り立った崖の底のような暗い現実に、なす術もないぼくらはどう接するか。もちろん、この小説を読んだからといって、その回答が得られるわけではない。ただ、こう思う。できる事がないなら、考えるしかないではないか、と。デビュー以来、人が人であるために起きる影の部分を描いてきた作者だが、この作品ではフィールドを広げてきた。とはいえ、青春小説には変わりはないし、登場人物たちの過剰な言い回しも相変わらずで、少なからず苦笑する場面もあった。若書きといういと、マイナスなイメージになるが、若書きだからこそテーマが伝えられることもあるのではないか。主人公は勉強する。現実ははるか遠くにあるため、机上で勉強するしかない。勉強したところで、今そこにある現実は変わらない。無駄といえば無駄だし、自己満足に過ぎないのは確かだ。しかし、徒労とわかっていても、やらなければいけないことがある。放棄したモノに価値は宿らないのだ。